なにはともあれナンセンス:マザーグース
Illustrated by Blanche Fisher Wright
I am the walrus
「君が僕であるように君は彼である、のと同じように僕は彼で、だから僕らはみんないっしょなのだ」と始まるビートルズ(ジョン・レノン)の"I am the walrus"。なにか深い意味があるようでいて実はなくて、かといって単なる出鱈目というわけでもなくて、歌詞、メロディ、アレンジともに何度聴いても味わいのある曲だ。
この"I am the walrus"はマザーグースからの引用がいくつも含まれていて、加えてマザーグースとの関連が強いルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」等からの引用もあり、そもそも「なにか深い意味があるようでいて実はなくて、かといって単なる出鱈目というわけでもない」という意味ではこれらはみんないっしょなのだ。
そんなわけで今回マザーグースの話。英語、詩、ことば遊び、絵本、英米の文化(洋画・洋楽・英米文学)あたりに興味のある人なら、きっと(知らず知らずのうちにでも)どこかで接点があったのではないだろうか。
マザーグース(ナーサリー・ライムス)
もともとはあちこちにちらばっていたイギリスの伝承童謡を、ジョン・ニューベリー(ニューベリー賞の由来になった人)が18世紀に、シェイクスピア学者としても知られるJ.O.ハリウェルが19世紀に、そして20世紀には決定版ともいえるものをオーピー夫妻が集成・研究し、現代に伝えている。
政治的・社会的な意味をもつ、あるいは風刺する唄が多いという説もあるけど、そうだとしてもその結びつきはほとんど忘れられ、今ではナンセンスで楽しい子どものライムといったところだ。
短めのものをいくつか紹介
Three wise men of Gotham
Went to sea in a bowl;
If the bowl had been stronger
My song had been longer.
ゴータムの村の三賢人
お椀に乗って海に浮かんだ
もしお椀さえ丈夫だったら
この唄もっと続いたんだ
・「終わりかーい」である。起承転結も何もない。ニューベリー編には「これでも長すぎるくらい」とこれまたマザーグース風な(?)注釈があるらしい。
illustrated by William Wallace Denslow
Elsie Marley is grown so fine,
She won't get up to feed the swine,
But lies in bed till eight or nine.
Lazy Elsie Marley.
エルシー・マーリー大きくなって
豚のお世話に起きたりしない
8時9時までベッドでうとうと
のらりくらりエルシー・マーリー
・朝寝に憧れがあるせいか、こういうのいいなーと思う。ぐうたらなのを別にとがめたりしないところに好感がもてるのかな。
illustrated by Jessie Willcox Smith
As I was going to St. Ives,
I met a man with seven wives,
Each wife had seven sacks,
Each sack had seven cats,
Each cat had seven kits:
Kits, cats, sacks, and wives,
How many were there going to St. Ives
セント・アイヴスへ行く道すがら
出会った男は奥さん7人連れていて
どの奥さんも袋を7つ持っていて
どの袋にも猫が7匹入っていて
どの猫にも子猫が7匹いて
子猫、猫、袋、奥さん
セント・アイヴス行ったのいくつ?
・なぞなぞ。答えは「1または0。セント・アイヴスへ向かっていたのは語り手だけだから、ととらえれば1、“子猫、猫、袋、奥さんがいくつ”かを聞いている、ととらえると0になる」←ドラッグ反転で表示
マザーグースを読む
●マザー・グースの唄―イギリスの伝承童謡 平野敬一著 中公新書
マザーグースはどんなものか、というのがひととおりわかる。やさしく詳しい入門書。
●講談社文庫マザーグース1~4 平野敬一(監修) 谷川俊太郎(訳) 和田誠(絵)
多方面で活躍する詩人の谷川俊太郎と人気イラストレーターの和田誠、そして平野敬一監修によるマザーグース百科事典といったところ。後ろのページには原語と簡単な解説もついていて、索引も完備。
●The Real Mother Goose
ネットで読めるマザーグース。「プロジェクト・グーテンベルク」という版権切れの著作を電子化してネット上で公開する電子図書館。
マザーグースを聴く
マザーグースは読むための唄(リーディング・ライム)ととらえる人もいて、必ずしもメロディや音楽、遊戯とむすびついているわけではない一方、それらの要素を強くもった唄もまたたくさんある。
●リブリヴォックス librivox
版権切れの著作を朗読した音声が、無料で公開されているサイト。ボランティアの手によって制作されている。「プロジェクト・グーテンベルク」と提携。たとえば上記のThe Real Mother Gooseを見ながら探せば、どの唄がどのあたりにあるかがわかる。
The Real Mother Goose対応するlibrivoxの音源
メロディにのせて歌っているのはこちら"Our Old Nursery Rhymes"
Our Old Nursery Rhymesに対応するlibrivoxの音源
Our Old Nursery Rhymes
●Wee Sing Mother Goose / Wee Sing Nursery Rhymes and Lullabies
「マザーグース」と「ナーサリーライムス」の2種類が出ている。
前者は、最初に朗読、その後に歌があるので、ふつうにマザーグースを聴きたい人にはこちらが適している。
後者は物語仕立てになっているのが特徴。歌とナレーションで進んでいく。また、全体の3割近くがララバイ(子守唄)になっている。
どちらも歌っているのは子どもで、合唱もあったりして楽しい。
●Sing a Song of Sixpence (BBC Audio)
シンプルでオーソドックス。大人が歌っている。曲ごとにトラックが分かれていないのがやや不便だけど、全体的に聴きやすく、選曲もいい。
●マザーグース・ベスト-Sing a Song of Sixpence (日本クラウン)
音楽のアレンジが凝っている、というか今っぽいというか、電子音も含めいろいろな楽器・音源を使っている。歌っているお兄さんお姉さんもどちらかというと声優っぽく、演じながら語りかけるように歌っている感じ。
●Mother Goose Remembers (Clare Beaton)
ややケルティック?なアレンジのマザーグース。格式が高めというか子どもっぽさ抑え目で、大人でも違和感なく聴ける。本も刺繍のイラストで独特の雰囲気。
●YouTube
唄のタイトルやキーワードの検索で、主要なものはたいてい見つかる。質はバラバラ、というか動画がなんかなげやりな感じだけど、聴こうとした時にさっと聴けるのが便利。