不思議の国のことば遊び
物語オールスターの中で…
以前「楽しみながら英語学習できる本」でも触れたように、世界のいろんな名作物語を短く簡単な英語に書き直したうすい本が、英語学習者向けにたくさん出ている。タイトルはたとえばこんな感じ。
アラジンと魔法のランプ/オズの魔法使い/ロミオとジュリエット/ガリバー旅行記/シャーロック・ホームズの冒険/不思議の国のアリス/オペラ座の怪人/クリスマス・キャロル/若草物語/マクベス/フランケンシュタイン/華麗なるギャツビー/ジキル博士とハイド氏/1984年/ジェーン・エア/オリバー・ツイスト/レ・ミゼラブル/白鯨etc.
風格漂う物語界の大御所たちである。簡易版とはいえ、どれを読んでもわりとハズレがない。僕の場合読んだことがないのもけっこうあったし、昔読んだことがあってもほとんど忘れていたものもあって、なかなか楽しめるものが多かった。
ところがたまにハズレもあって、いまいち良さがよくわからないのもある。その最たるものが「不思議の国のアリス」だった。
話に脈絡がないし、ドラマや意外性もないし、かといって趣きみたいなのもないし、ただのデタラメな物語にしか感じないのである。なんでこれが名作とか古典とかのカテゴリーに入っているのかよくわからなかった。
アリスの読み方
それも無理はなかった。アリスはパロディや言葉遊びがウリなのであって、オリジナルを書き直した時点でだいぶその養分みたいのは失われてしまう。それに英語の慣用的な使い方などがあやふやな状態で読んでも、肝心な部分はたいてい見落としてしまうのだ。
ラーメンズというコントユニットがあるけど、彼らの舞台に近い、と言えば知っている人にはわかりやすいかもしれない。公演名でも"ALICE"というのがあるくらいだ。言葉で遊びまくっている。
だから、外国人がアリスを読むにはいくらかの予備知識が必要といえる。パロディは特に元ネタを知らないとちんぷんかんぷんだ。ものまねグランプリみたいなのだって元を知ってるとすごく面白いし感心もするけど、知らないものだと「んん?」ってなるのと同じで。
そこで元ネタを読みながらパロディ(アリスの詩の部分)を読んでみた。元ネタはネットで簡単に見つかった。さらに和訳とその注釈も参考にしながらそれらの間を行ったり来たりしてると、いつしか波長がなじんできて、比較的平易だった地の文にもいろいろ仕掛けがあるのも見えてきて、気がつくとそこは……
たしかに不思議の国でありました。
アリスの挿絵
これまでに実に多くのイラストレーターが挿絵を描いている。オリジナルはジョン・テニエル。ほかにメルヘン・ファンタジーで人気のアーサー・ラッカム、ムーミンのトーベ・ヤンソン、おなじみ和田誠らの他にも、最近ではフィリピンのKriss Sisonや日本のokamaのアニメ・マンガ風のイラストや佐々木マキなどもいて、かなりのバリエーションである。
アリスの原書
2015年現在洋書"Alice's Adventures in Wonderland and Through the Looking-Glass"で入手しやすいのはPenguin Classicsのテニエル版と、Seven Seas EntertainmentのKriss Sison版。ペンギンの方は「不思議の国のアリス」「鏡の国のアリス」「地下の国のアリス」が入っていて、解説なども入っている。字は小さい。セブンシーズの方は「不思議」と「鏡」で、字が大きい。2014年の発売以来大評判で、アニメ絵に抵抗がなければおすすめ。テニエルは必須だけど、ネットで全点見れることもあるし。
アリスの和訳(不思議の国のアリス)
高山宏訳 佐々木マキイラスト 亜紀書房 2015
山形浩生 カズモトトモミ 文春文庫 2012
河合祥一郎訳 テニエルイラスト 角川文庫 2010
村山由佳訳 トーベ・ヤンソンイラスト メディアファクトリー 2006
高橋康也訳 アーサー・ラッカムイラスト 新書館 2005
など。
備考
●The Annotated Alice
Martin Gardnerによる注釈ががっつりついた"The Annotated Alice"というのもある。和訳も出ていたけど絶版のようで、入手は出来るけど値段は高め。
●訳の比較などが詳しいサイト
The Rabbit Hole
●プロジェクト・グーテンベルク
ALICE'S ADVENTURES IN WONDERLAND
THROUGH THE LOOKING-GLASS