野口体操

酢vs野口体操

野口体操、というものを毎日のようにやっている。元来カタかった身体がだいぶ柔らかくなってきた。

そういえば酢を毎日飲んでも身体が柔らかくなるというけど、ほんとだろうか。仮にほんとだとして、それにしても酢なんて飲めたもんじゃない。いやしかし飲んでいるうちにうまいと感じてくるのかもしれない。それでも、真夏の農作業が終わった時に飲む麦茶くらいにウマイ、ってくらいでなければ、この勝負は野口体操の勝ちである。別に酢が嫌いなわけではない。むしろ好きかも。酢メシも好きだし、餃子の酢醤油でも活躍してくれるし。 ていうか野口体操の話だ。

毎日できるもの、というのはなかなかあるものでもない。よっぽど必要なこととか、よっぽど好きなこととか、よっぽど楽しいことに限られる。 が。野口体操はそのどれにもあてはまらない。強いて言うと、地味に気持ちがいい。やめられない。後をひく。
人にやってもらうマッサージや整体は、派手に気持ちがいい。そういうのを超高級なティラミスみたいなデザートとすると、野口体操はツウ好みのかりんとうといったところだろうか。この時点で野口体操はマッサージや整体に負けていると思ってしまったあなた、早合点してはいけない。野口体操はタダ(無料)なのだ。コストパフォーマンスを考慮すると、ここでも野口体操の勝ちといえる。 しかも野口体操を通して得られるものは、柔軟性以上に哲学ともいえるのだ。

ちなみに野口体操は勝ち負けとかそういう考え方とは対極にある。体力測定とかで測れるものは、身体のことのほんの一部分でしかない。だから勝った負けたなんていっているようじゃだめなんです。競争原理、ってのがまったく不要というわけではないけれども、そういう見方をまず捨ててみる。誰々に較べて柔らかいとか、どんな曲芸ができるとか、そういうんじゃないんですね。

地味に…

さてこの野口体操、問題は地味に難しいということ。

特にはじめの頃は、動きをやっちゃあ本を熟読し、動いちゃあ熟読、動いちゃあ熟読・・・を繰り返す必要がある。

お金に余裕があればワークショップに参加してみるのもいいかもしれない。ただ、野口体操を創始した野口三千三(みちぞう)さんが亡くなってしまっていて本人の授業は受けられないため、彼の本を読むのは必須。繰り返し動いて繰り返し読んで、ていねいに、大事に、惜しまず時間をかけて感覚をつかんでいくべし。

「ていねいに、大事に、時間をかけて感覚をつかんでいく」

ってこれ、いろんなことにあてはまることのような気がする。

重さとの対話

野口体操の基本的な動きの一つ「上体のぶら下げ」を例に、イメージを紹介しようと思う。

いわゆる前屈と似たような形だが、それとはまったく違う。前屈が立てた携帯電話をパタンと閉じたものだとしたら、上体のぶら下げは立てたムチみたいなものなのです。構造が。

さて、上体が腰からぶら下がっている時のイメージ。

  • ●身体は骨を中心に筋肉・内臓・皮膚がくっついているのではなく、皮膚の中に体液がたっぷり入っていて、そこに筋肉・内臓・骨がプカプカ浸されている、という感じ。
  • ●ゆっくり息をする。で、息は止めたりしない。同時に、身体の中身をゆるめる気持ちで。
  • ●ゆっくり左右の足の体重を乗せかえたりして生まれた動きは、足からのぼって腰を揺らし、そこから下って腹・胸・肩・首・顔・頭や腕・ひじ・手へと伝わっていく。水面の波紋がゆっくり遠くまで伝わっていくみたく。あるいは重さ、という流れをゆっくり流し込む感じ。それをていねいに味わう。流れの通る「道」をあけてあげる。
  • ●細胞と細胞の間の隙間を広げるような感覚。
  • ●地球のまんなかとつながっているような感覚。
  • ●60兆の細胞の一つ一つに分け入って、細胞一つ一つに揺れを与える。
  • ●繰り返し繰り返し…

楽しみは能力のうち

それだけじゃあ3分で飽きてしまう、と思うだろうか。

野口三千三さんは、この上体のぶら下げだけでも何年やってもいろいろ発見がある、と言っています。てことはこの一見動きがえらく少ない体操の中で、微小な変化を敏感に感じ取っているということ。そしてそれを楽しんでいるということなのです。

「真の音楽家とは音楽を楽しむ者のことであり、 真の政治家とは政治を楽しむ者のことである。 楽しみは能力のしるしである」(アラン)

「才能とは、今ここで、このことに対して、 新鮮な興味を持つことができる能力である」(野口三千三)

大事なのは、身体で何が起こっているのかをよく観る、身体の声に耳を澄ませること。差異が分かる感覚を育てていくわけです。

いろんな身体法

野口体操とよく似た身体法で外国生まれのものもいろいろあります。興味がある方はググって(検索して)みてください。

●すごく似ているもの
フェルデンクライス身体訓練法
アレクサンダー・テクニーク
ロルフィング
コンタクト・インプロビゼーション
●ちょっと似ているもの
スタニスラフスキー・システム
太極拳
ヨガ
●名前が似ているもの
野口整体

☆ダンスとの関係

野口体操は、野口三千三さんが自身の身体を通して得た実感から生み出された、独自の体操です。 上に挙げたものを学習したわけではないのに、偶然似ていた、というところがすごい。 一方で、モダンダンスという意外なところとの関係もあるようです。 野口さんは戦後の頃に江口隆哉・宮操子舞踊研究所に入門。 兄弟子に大野一雄さんがいました。ダンスセラピーの芙二三枝子さんもここの出身のようです。 江口隆哉さんらはドイツ流モダンダンス(ノイエ・タンツ)のマリー・ヴィグマン舞踊学校で学んでいます。 さらにさかのぼっていくと、ルドルフ・フォン・ラバンの名前も出てきたりします。