心が裏返る?:
レスポンデント条件づけ・オペラント条件づけ

Illustration by Susan Murtaugh

フランケンシュタインというと怪物と思われがちだけど実は博士の方、というのと似たような感じで、パブロフというとどこか犬とかヨダレのイメージがあった。
ところが実際はすごく有能な博士でノーベル賞も受賞してたりする。研究自体も奥が深く、ヨダレ犬とはだいぶギャップがあるのだった。
そして彼の理論などをもとに後に発展した行動分析は、実用としても「人間の見方」としてもいろいろなことを教えてくれる。

レスポンデント(古典的)条件づけ

たとえば犬にメトロノームの音を聞かせてから餌を出す、というのを繰り返すと、犬はそのうちメトロノームの音を聞くだけで唾液を出すようになる。メトロノームの音と餌が、犬の中で結びつけられる(学習される)のだ。
餌は好ましい刺激だけど、逆に不快なもの、たとえばメトロノームの音を聞かせた後に大きな不快音を聞かせるというのを繰り返すと、その犬はメトロノームだけでも嫌がるようになる。

恐怖条件づけ

ジョン・ワトソンらが乳児のアルバートに恐怖条件づけをした実験がある。アルバートに白ネズミを見せ、背後で鉄棒をハンマーで激しく叩いて大きな音を出す、という手続きを繰り返したのだ。アルバートはやがて白ネズミを見ただけで怖がるようになり、のみならず白ネズミに似たもの、ウサギ、毛皮のコート、脱脂綿まで怖がるようになった。
(実験とはいえひどい話だ)

レスポンデント条件づけの日常例

日常的なものでいうと、レモンを見るだけで唾液が出るのもこれらと同じだ。レモンの「見た目」がすっぱいわけではないのに、レモンを見ただけで、あるいは写真を見ただけで、ことによるとレモンという言葉を聞いただけで生唾が出てくる。
レモンを食べたことがない人は、レモンを見ても唾液は出ない。しかしいったん「レモンの見た目―レモンの味―すっぱい」の学習が定着してしまえば、唾液を出さずにいるのは難しい(というか不可能に近い)だろう。

レスポンデント条件づけの新しい研究

ここまでは「刺激(メトロノーム)」と「反応(唾液)」の学習だけど、新しい研究によるとそれはレスポンデント条件づけの一部にすぎなくて、他にも「刺激」と「刺激」の学習などもあるということがわかってきた。
たとえば鈴をつけた猫を続けて何度か見ると、鈴の音を聞いたら猫を思い浮かべたりするというような。そういったことも考えると、レスポンデント条件づけとは、

「2つの刺激を時間的に前後させて提示する手続き」
(『行動の基礎』 小野浩一著)

ということになる。
マーケティングの手法で、CMに好感度の高いタレントが出てくるのは、タレントのイメージを商品やブランドにつなげるためというのがあるが、そういったものもレスポンデント条件づけの例といえるだろう。だから、パブロフといったら犬やヨダレ、と連想してしまうのもある意味しょうがないのだ。

仄めかし

ニュートラルなものに好感度のあるイメージを帯びさせる(つなげる)、という活用が多いレスポンデント条件づけだが、ここでも逆に、ニュートラルなものに不快なイメージを帯びさせる、という悪用の余地がある。
普通の人(条件づけされていない人)にとってはなんら害のないニュートラルなものを用いて、特定の人にこっそりと不快なものを見せても(聞かせても)誰にも気付かれないということが可能となってしまうのだ。この点については社会としても、十分に対策を考えていかなければならないだろう。

オペラント条件づけ:シェイピング(行動の形成)

水族館のイルカのショーや、ペットのしつけなどでよく知られるのがこちらのオペラント条件づけ。ソーンダイクやスキナーらが創始し、教育や福祉他いろいろな分野でも活用されている。

イルカは自然の状態ではいろいろなジャンプをする。その中で一番トレーナーにとって望ましいジャンプをした時に餌などのご褒美をあげると、そのジャンプの頻度が増える。これをシェイピング(行動の形成)といって、この繰り返しでああいった驚くべきショーの芸当を学習するのだ。

行動随伴性:行動に伴う環境の変化

ある生体が何かの行動をすると環境が変わる(環境は生体の外の時も、内側の時もある)。その変化が生体にとって好ましい変化(食べ物・好意・快を得るなど)ならその行動は増え、そうでないなら減る。行動した直後の環境・状況の変化よって、その行動の頻度が変わる。
ということは、行動の後に原因がある、といえる。普通に考えると、何かをしようと思ってからその行動を起こすというふうに、原因は行動の前にあると思われがちだけど。

こんな例がある。
ある精神病棟の患者が、ナースステーションに用も無いのに頻繁に入ってくるという問題行動があった。看護師が用事を聞いても患者は答えない。仕方がないからなんとか説得して病室まで連れて行く。やめるように言い聞かせるのだけど、やはり来てしまう。
オペラント行動の視点で分析してみると、その患者はナースステーションに行くと看護師たちに反応され、注目され、話しかけられ、病室まで付き添ってくれる「から」ナースステーションに行っていたのだ。そこで看護師たちが、その患者がナースステーションに来ても気にかけないで仕事を続けるようにしたところ、その行動は次第になくなっていった。

心は「周り」にもある?

暗い部屋で電気をつける(と明るくなる)、雨が降ってきたら傘をさす(と濡れない)、退屈すると騒ぐ(と楽しくなる)、叱られたら謝る(と怒りがおさまる)、話しかける(と反応してもらえる)などもオペラント行動である。行動の直後に変化があって、それによってその行動が動機づけられている。

こう見ていくと、生体の行動は環境から導かれるということがいえる。生体の内側にある心が原因になったり何かの行動を決めたりするのではなく、環境の側にそういうものがある、というようなアプローチなのだ。
もちろん精神分析でいう無意識等、内側から生じる行動もあるだろうけど、環境から生じる行動も少なくないと思える。

行動分析とアフォーダンス

行動分析とはまた全然違うけど「アフォーダンス」という分野があって、こちらも知覚者を取り囲むもの(環境)に心があるというような見方をしているのを思い出す。こういったものに触れると、生きものや世界の見方が思いがけない方向に広がってびっくりする。