泥棒と郵便局

Photo by Tasha Chawner

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ある泥棒が郵便局へ入っていった。

もちろん、見るからに泥棒、というふうではない。その泥棒はグレーのスーツを着て、A4ほどの大きさの茶封筒をいくつか持っていた。平日の昼間の、都心の郵便局にいてなんの違和感もなかった。

そもそも見るからに泥棒ってどんなだ、という疑問もあるが。ほおかむり? 無精ひげ? 背中を丸めて忍び足? 多分そんな泥棒はいない。 しかし彼は確かに泥棒であり、この郵便局へはその本職の仕事があってやってきているのだった。

彼の本職は盗むことである。

盗む、とは何か。
ひとのものだとか、会社のものだとか、公共のものだとか、とにかく自分のものでないものを、断りなく持ち出してしまうことである。

彼は窓口に行き、受付の郵便局員の女性に封筒を渡した。郵便局員は封筒の重さを量った。 彼は金額を正しく支払い、レシートを受け取った。

2
ある郵便局が封筒の平日で、泥棒に糊付けしていた。 もちろん、見るからに郵便局ではない。見るからに郵便局ってどんなだ、という疑問もあるが。赤いポスト? 整理券発券機? 無精ひげ? 多分そんな郵便局はいない。

3
「順序です」と泥棒は郵便局員に言った。「盗んだのは。言葉の順序を盗みました」
そして整理券を1枚引き出した。

郵便局員はびっくりしてたずねた。「順序は、そもそも、元はと言えばどなたの所有だったのですか?」
「お話のものです。お話には順序があります。」
「そしてあなたは、その盗んだ順序をどうなさるのかしら」
すると泥棒は少し考えてから答えた。
「どうもしません。盗むのがわたくしの仕事です。それが泥棒がすることです」
すると郵便局員は少し考えてから言った。
「誠実な泥棒なんですね」
「そうです」
「ではわたしは郵便局員なので、そのお品物を郵送いたします」

郵便局員はそう言って、数ある「順序」を手際よく、それぞれの封筒に入れた。品物の重さを量り、スタンプを押し、料金を受け取り、レシートを渡した。 泥棒は、渡されたレシートの項目を1つ1つ確認した。
おそらく、ぜんぶの順序が、しかるべき届け先に届くわけではないだろう。郵便局員はそれを知っていた。泥棒もそれを知っていた。 それだって、送らないよりは送ったほうがずっといい。
彼は、それぞれの順序が、近くの土地、遠くの土地の誰かに届くところを想い描こうとした。でもあまりしっくりこなかった。
そして、泥棒は郵便局を後にした。次の仕事が、彼を待っている。